研究紹介

多様なライフコースを許容する新たな暮らしの選択肢を
コレクティブハウスの実証的研究

建築学部 建築学科
宮野 順子 准教授
専門分野:建築計画、建築設計

ライフコースの多様化

 未婚化や晩婚化、少子高齢化の進行、伝統的規範意識の低下などを背景に、単身世帯は増加傾向にある。2020年の「国勢調査」によると、単身世帯の割合は38%と上昇傾向にあり、一般世帯の中で最も多くの割合を占める。また、核家族化や地域のつながりの希薄化に伴い、単身世帯に限らず、「夫婦のみ世帯」や「ひとり親世帯」等においても、周囲からの支援が得られず、社会的孤立のリスクが指摘されている。

「コレクティブハウス」という住まいの形

 こうした社会的背景のもとで、単身世帯を含む多様なライフコースを包摂し、緩やかな共同性をもつ居住形態「コレクティブハウス」が注目されている。コレクティブハウスとは、独立した住居と共用スペースの両方を備えた集合住宅で、共同生活をする住まい方である。水回りを共有することが多いシェアハウスよりも、プライバシーが確保されており、子どもから高齢者まで、さまざまな世代と交流できる。宮野准教授は、コレクティブハウスの社会実装を視野に入れ、数十年の長きにわたる実態調査を進めてきた。コレクティブハウスの発祥であるスウェーデンをはじめ、日本における先駆的事例「コレクティブハウスかんかん森」や高齢者グループリビングを対象に調査を実施した。

 その結果、「コレクティブハウスという血縁関係に寄らない共同生活により、単身世帯に関わらず、カップルやシングルマザーなどにも新たな暮らしの選択肢が提供できる」と宮野准教授は語る。また、地域行事への参加を通して地域とのつながりも増え、生活の質の向上も期待できる。

「コレクティブハウスかんかん森」の平面図

「コレクティブハウス」の普及に向けて

 「国内のコレクティブハウスの実践事例は現在約10件と少なく、その普及には多くの課題が存在する」と指摘する。課題の1つとして、日本特有の建前文化の影響が考えられる。共同生活では居住者間の自主的な運営が求められるが、人前で本音を話すことに慣れていない日本人の文化的特徴が、コレクティブハウス普及の阻害要因となっている可能性がある。「これらの課題に対する解決策の検討が重要だ」と分析する。

 今後は、豊富な実践例を有する海外を中心にさらなる調査を進めるとともに、空き家活用を検討する自治体や不動産事業者との連携のもと、国内における新たなコレクティブハウスの実現を目指す。「これからさらにライフコースの多様化が進んでいくだろう。社会構造の変容に対応した、活発な住民間交流を推進する居住空間の創出を通じて、誰もが安心して暮らせる社会の実現に貢献したい」と宮野准教授は展望を述べている。

共用スペース
独立した居住スペース

PROFILE

京都大学大学院都市環境工学専攻博士課程修了。
遠藤剛生建築設計事務所にて、主に集合住宅を中心とした建物の企画、基本設計・実施設計、現場監理に従事。
兵庫県立福祉のまちづくり研究所 研究員、京都光華女子大学短期大学部ライフデザイン学科講師を経て現職。