医療的ケア児の学校教育体制
と学校看護師支援のしくみを構築
教育学部 教育学科
宇野 里砂 教授
専門分野:特別支援教育、小児科学、神経生理学、障害児医療
重責を担う学校看護師の職務
医療の進歩により重症であった子どもの命を救えることが増え、たん吸引、経管栄養など日常的に医療的ケアが必要な子ども(医療的ケア児)が2000年代に入って急速に増加した。医療的ケア児の就学先は特別支援学校だけではなく、地域の小・中学校等に進学するケースも増えているため、地域の小・中学校等で医療的ケアを実施する「学校看護師」の需要も高まっている。
一般的な医療機関では、看護師は常に医師と協働でき、同僚看護師と相談しながら働ける環境にあるが、学校現場では校内で唯一の医療職であることも多く、医療職にすぐに相談できるわけではない。医療備品も限られるため、学校看護師は重責を感じやすい。さらに、学校現場は教員が主体となる場であり、教育と医療のすり合わせがうまくいきにくいケースもある。医療的ケア児の在籍校にとってはなくてはならない存在ながら、学校看護師という職の認知の低さ等で新規雇用が難しいことに加え、短期間で離職となる学校看護師もあり、現場の課題となっている。
医療的ケア児が在籍する学校へ専門家を派遣
小児科医であり、障害児医療や特別支援教育などを専門とする宇野教授は、医療的ケアと特別支援教育に精通した医師として、2019年から大阪府教育庁(教育委員会)と学校を訪問するようになった。医療的ケア児の学校教育体制支援と、学校看護師の離職を防ぐしくみのひとつとして、大阪府教育庁の「市町村医療的ケア実施体制構築に係る専門家派遣」事業の開始に関わり、大阪小児科医会がこの事業に専門家を派遣する連携締結に携わった。同事業では、専門家の訪問を希望する小・中学校に、大阪府教育庁担当者、市町村教育委員会担当者と医師が訪問し、現場の悩みを聞き、授業や給食場面などを参観して、主治医や学校医、かかりつけ医、在宅診療医等との連携を元に、医療的ケアの専門家として学校へ支援・助言を行う。教育庁などの担当者も同席していることから、その場で多面的な意見のすり合わせが可能で、さらに学校看護師と面談し、相談対応できる。
「地域の小・中学校に通う医療的ケア児の状態は多種多様で、重度重複障害児も含まれます。例えば、保護者付き添いなしで宿泊学習に参加するにはどうすればいいのか、ご相談をいただいくこともあります。学校を訪問し、学校看護師、学校管理職、担任、養護教諭、特別支援コーディネーターなど、関係する先生方からお話をうかがって状況を整理し、不足している準備や視点があればお伝えします。」と宇野教授は語る。同事業の相談内容には、「気管切開している児童が安全にプール授業を受ける方法は?」「たん吸引が必要な生徒に長時間のバス移動は可能か?」など、学校現場で対応に悩む事例が並ぶが、専門家の訪問・助言後のアンケートには、学校側の対応策が具体的になり、学校看護師の不安が解消されたとある。学校看護師の離職の防止に役立っていることがうかがえる。

支援体制の拡大とリーダー育成を目指して
学校での医療的ケアは年々、高度化・複雑化している。医療的ケア児が安全で有意義な学校生活を送るためには、保護者・教職員・学校看護師・主治医などのきめ細やかな連携が必要で、「本人や保護者が進路や人生の選択をできることがなにより重要」と宇野教授は指摘する。「主治医が学校での子どもの様子を十分に把握できていないケースは少なくありません。そのため、医師に対しては小児科医会を通じて、現場で実践しやすい指示書の書き方などを情報発信しています。一方、学校看護師に対しては、より自信を持って対応できるよう、「主治医にはこう質問すると効果的」「現場の状況はこう伝えるとよい」といった具体的な助言を心がけています。今後は、他府県の支援体制の担当者との意見交換や、学校看護師がより効率的に働くためのリーダー育成に関する研究にも関わっていきたいと考えています。」

PROFILE
大阪大学大学院 医学系研究科 神経生理学 博士課程修了。
研究テーマは発達障害の診断と教育・保育・リハビリテーションへの展開、医療的ケア児の教育・保育体制構築など。医療的ケア児と特別支援教育に精通した医師として、大学での授業や研究活動のかたわら、学校訪問・講演・研修会などを続ける。