研究紹介

デジタル技術による
健康管理の大いなる可能性

食物栄養科学部 食物栄養学科
絹田 皆子 講師
専門分野:公衆衛生学、予防医学、栄養教育

継続的な測定を妨げる高血圧治療の課題

 国内の高血圧患者は約4,300万人に達し、しかもその約3分の1は自身の高血圧に気付いておらず、適切な管理や治療がされていない状態といわれる。血圧を正確に把握するには1日複数回の測定が不可欠であり、その煩雑さや記録の手間が習慣化を妨げ、高血圧であることの自覚や治療、生活習慣の改善へとつながりづらい現状がある。


IoT技術を用いた疫学研究で得た3つの成果

 絹田講師は2018年より、島根県益田市におけるIoT技術を用いた家庭血圧管理研究を続けている。「益田研究」には累計約850人の地域住民が参加(2024年3月時点)。現在も継続して約350人が血圧計測を続けており、対象者は基本的に朝夜各2回ずつ血圧を計測し、その数値はインターネット回線を通してクラウドへ自動転送される。さらに希望者には、活動量計を用いて歩数値・活動量を計測している。益田研究における累積測定回数は、家庭血圧値で50万回超、歩数値・活動量で25万回超である。これらのデータをもとに、絹田講師らは3つの重要な成果を得た。

 1つ目は、高血圧の予防・管理において、室温管理が重要であること。同研究では血圧測定と同時に室温も計測・転送されており、これに気象庁の外気温データを組み合わせて解析したところ、室温が血圧により大きな影響を与えることが判明した。

 2つ目は、1年間継続して計測した人からは血圧値の有意な低下に加えて、尿中推定食塩摂取量の減少も確認されたこと。自身の血圧を継続して確認することが減塩につながる傾向が見られ、継続計測が食習慣の改善にも寄与する可能性が示唆された。

 3つ目は、適度な運動と歩数の増加が血圧を低下させる効果があること。これは、運動と家庭血圧の関係性を定量的に把握した結果として報告した。
さらに同調査では希望者が尿ナトカリ比の計測もできるため、そのデータ解析も非常に興味深かったという。

 「食品により尿ナトカリ比が大きく変わること。同じ食品を食べる夫婦なのに、性差や体格差により数値に差が出ること。これらの点にも興味をかきたてられました」と絹田講師は語る。

運動時間が増えるほど家庭血圧(上の血圧)が低下する傾向が見られた
セルフモニタリングの重要性

 「私はこれまでさまざまなフィールドワークに参加し、泥臭い現場調査を重ねてきました」と絹田講師は振り返る。「益田研究はデジタル技術を活用することで距離や時間を超え、かつ血圧を記録する手間を省くことで継続的な計測ができています。被験者が毎日ご自身の血圧や歩数を測ることで“ご自身の体を知る”ことができ、結果として健康知識が深まり、自発的な行動変容を生み出します。益田研究では“気づく”ことの大切さ、セルフモニタリングの重要性を改めて確認しました。今後もデジタル技術を活用した調査研究を継続し、教育媒体にも展開していきたい」と絹田講師は語る。

 現在、IoT機器を用いた尿ナトカリ比のセルフチェックによる介入研究や、保育園児と保護者を対象とした生活習慣改善の研究などを構想している。また、企業との連携により、これまでにない健康改善アプリの開発にも取り組んでいきたいと考えている。後も日常生活の中から研究のアイデアを見出し、ヘルスプロモーションへの新たなアプローチを展開していく考えである。

セルフモニタリングによる記録を基に、新しい健康行動の可能性を探る

PROFILE

大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座修了。博士(医学)。管理栄養士。
前職)岡山大学学術研究院 医歯薬学域公衆衛生学分野 助教。
高血圧予防に関する予防医学研究、食事調査を含む疫学調査などを通じて、『食』を通じた持続可能な健康づくりの実現を目指す。