香り・匂いの表現に込められた、詩人の思いを読み解く。
文学部 日本語日本文学科
狩野 雄 教授
(武庫川女子大学 キャンパスガイド2025から転載)
三国志の時代を中心とした前後約300年の詩文に見える、香り・匂いの表現を研究する狩野教授。
香りの表現はこの時代に本質的に変わったと考えている。
例えば西晋の時代、潘岳という人物が詠んだ「悼亡詩」の中に「流芳未及歇(流芳 未だ歇くるに及ばず)」という句がある。
衣類から漂う香気によって今はいない人を思い出すこの表現から、香りが記憶と結びつき、魂とシンクロするものとして捉えられていたことが分かる。
これは一例にすぎず、この時代にはそれまでなかった香りの表現が幾つも登場する。
「気」という漢字もこの時代から香りの表現として用いられるようになった。
香り・匂いの表現のみに焦点を当てた研究は異質だ。他の研究者から「どうしてそんな狭いところにいくのか」と言われることもあったという。
しかし研究が進むにつれ、香りの表現は当時の詩人たちの実感を表すものとして非常に重要な意味を持つことが分かってきた。
これらの研究をまとめた著書『香りの詩学 三国西晋詩の芳香表現』は、第4回三国志学会賞や第16回立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞を受賞している。
今、古典文学を学ぶ意義は何か。
「これまでは効率的に答えを見つけることが評価される時代でした。しかしその役割は今後AIが担うでしょう。これからは『答えの出ない問題』を考え続ける力が求められると思います」と狩野教授。
古典文学の解釈に正解は無い。遺された表現から作品に迫っていく他ないからだ。
簡単には答えが出ない研究。そこに、これからの時代を生き抜くヒントがある。
PROFILE
東北大学文学部卒業。
東北大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。
相模女子大学学芸学部日本語日本文学科を経て2019年に本学着任。
中国古典詩文の中の香りや匂いの表現に関する研究を行っている。