研究紹介

2025年の大阪・関西万博で、1970年大阪万博の教訓を活かそう!

  • 2023/03/13

    本田 一成

2025年の大阪・関西万博で、1970年大阪万博の教訓を活かそう!

私は労働組合の女性役員(クミジョ)について研究しており、さまざまな立場を経験した多様な世代のクミジョとお会いします。最近、あるクミジョOGから1970年に開催された大阪万博「エキスポ’70」の思い出話を聞きました。当時はお祭り騒ぎだった大阪万博が、実は労働問題の宝庫だったというのです。
2025年に大阪・関西万博が開催されますが、エキスポ70の教訓を活かさねばなりません。そこで、クミジョOGの話や当時の記録を紐解きながら、当時は5歳の少年、今は労働組合の研究者となった私の立場から意見を述べようと思います。

華やかな大阪万博は超過酷な労働環境だった

1970年に開催された大阪万博は、当時の最新鋭の機器が勢ぞろいする「未来を体感できる場所」でした。当時5歳だった私も、父が運転する「いすゞ117クーペ」に乗って大阪をめざしたところからの記憶があります。
時は流れてつい先日、80歳を超えてなお若々しいクミジョOGにお会いする機会がありました。彼女から聞いたのは、1970年大阪万博で実はものすごい数の労働問題が発生していたということ。
今でも1970年の大阪万博が語られる時には、必ず登場する各パビリオンのコンパニオン。彼女たちの多くが地元大阪や地方の女子大生でした。しかも会期限定の万博ですから、雇用形態も当然非正規雇用。実際に働きはじめると募集時の条件が守られないことも多かったようです。
例えば、コンパニオンの実際の雇用主はパビリオンを運営する企業や国ではなく、怪しげなブローカーが介在するケースもあったそう。派遣会社が法律に則って行う派遣社員のような形ですが、ほとんどのコンパニオンは雇用主がパビリオンの企業と異なる事実を知らぬまま働いていたそうです。さらに当時は「足が太い」とか「文句ばかり言う」といった理由だけで解雇になったらしく、ほかにもパワハラやセクハラまがいの問題も多数発生していたそうです。
また、会場内の移動手段として運行されていた電気自動車の「エキスポ・タクシー」の運転手として雇用された女子大生も、ユニフォームは一着しか貸与されず、洗濯代も自己負担だったそうです。しかも夏の暑い時も冬の寒い時もユニフォームは変わらず、上着を着ることも許されず、寒くて上着を着ているのが見つかると解雇されたほか、こちらもパワハラ、セクハラ、賃金未払いがあったそうです。

「エキスポ綜合労働組合」が絶大な力を発揮した1970年の大阪万博

1970年の大阪万博は過酷な労働環境だったため、労働者から労働組合の全国組織である「総評」が早々に動き出しました。そこで大阪総評が代表して万博協会と協議し、博覧会場内に労働相談所を設置したり、万博内で働く人々による労働組合の結成をサポートしました。その1人が大阪総評にいた冒頭のクミジョOGでした。当初、女子大生たちを中心に結成された「エキスポ綜合労働組合」は、あっという間に1000人以上が加入したそうで、後日さまざまな労働争議に団結して対抗する礎となり、絶大な力を発揮したそうです。委員長は女子大生で、卒業後はクミジョになったそうです。最初は団体交渉を行っても相手にしてもらえなかったそうですが、ひとたびストライキを起こすと状況は一変し、要求が通ることが多かったといいます。
事実、万博期間中はストライキによるパビリオン休館もあったそうで、特に外国のパビリオンは暴力や不当なパワハラ、セクハラが横行していました。華やかな国際博覧会の裏側は殺伐としていたようです。また、日本企業のパビリオンに対しては、労働委員会という公的機関に提訴する方法が効果的だったといいます。
クミジョOGによると、万博期間中の組合活動は実際に労働環境の改善やボーナスを含めた賃金アップなど、労働環境はかなり改善したとのこと。女子大生たちが泣き寝入りせずに労働組合を結成したことで労働環境が改善したストーリーは、かつての労働組合の存在意義を認識するには十分だと思います。

今の労働組合が「歴史は繰り返す」を防ぐ?

ここまでは思い出話ですが、私は2025年の大阪・関西万博でも同じ事態が発生することを危惧しています。1970年の大阪万博では、賃金や雇用形態の問題に始まり、不当解雇、セクハラやパワハラ、差別などに労働者は苦しめられました。「歴史は繰り返す」です。今回の大阪・関西万博でも同じ事態が発生すると考えます。
これは私の持論でもありますが、労働者にはいわば宿命が存在し、しかも正社員と非正社員では「労働者の宿命」が異なります。
正社員は長時間労働や休日出勤など時間を奪われる宿命にあります。その結果、残業未払いや過労死、過労自殺などに至ってしまう。なので労働問題で争われる時は、必ず労働時間が絡みます。一方、非正社員は労働時間を奪えないので直接賃金が狙われます。その結果、低賃金や賃金不払いといったお金が絡むのです。
2025年に開催される大阪・関西万博も、コンパニオンや会場で働く人のほとんどが非正規雇用でしょう。おそらく募集時の賃金は高いでしょうが、お金を狙われて多くの労働問題が発生すると予測しています。私は、この予測に対して労働組合が立ちあがるかどうかに注目しています。1970年の大阪万博で成果を挙げた組合活動を踏まえ、2025年の大阪・関西万博開催前に現在の労働組合が立ちあがり、万博で働く労働者たちを守る……そんな力が今の日本の労働組合にあるのかどうか。それとも労働者が苦境に陥っている姿を見ても、お祭りムードに流されて見て見ぬフリをするのか……。
もし労働組合が立ちはだからなければ、1970年の悲劇が再び繰り返され、ますます日本の労働組合は形骸化していくかもしれません。歴史は繰り返されると思っていますが、私の予測が外れて欲しい気持ちが強いです。外れれば日本の労働環境を確実に良くする力があることが証明されるのですから。むしろ外れて、「日本の労働組合もまだまだ捨てたもんじゃないな」と思わせてもらえたら、労働組合を研究する研究者としてこれほど嬉しいことはありません。