研究紹介

料理の構造化から考える、持続可能な食生活。レシピ設計のプロセスに着目したワークショップを開催。

食物栄養科学部 食創造科学科
本田 智巳 講師
食物栄養科学部 食創造科学科
本田 智巳 講師

 女性の社会進出や単身世帯の増加に伴い、食の外部化は年々進行している。国の調査によると、普段の食事において「ほとんどのものを食材から調理して食事を準備している」と回答した者の割合は、特に若い世代(20代)で低いことが明らかとなっている。

 食の外部化は調理機会の減少をもたらし、「私たちの食の選択が環境や社会に与える影響について考える機会が失われてしまう」と、本田講師は懸念する。例えば、外食により「料理が出来上がった状態」で提供される場合、食材一つ一つがどこで、どのように作られたのかについて意識が向くことは少なくなるだろう。このような状況は、現代の食生活がもたらす食品ロスや食品輸送に伴う環境への負荷といった問題に対する関心や理解を希薄にさせ、持続可能性を視野に入れた食生活を推進する上で妨げになると本田講師は指摘する。

 そこで取り組んでいるのが「持続可能な食生活について考える」をテーマとしたワークショッププログラムの開発だ。ターゲットは、高校生や大学生等の若い世代。近い将来食の自己管理が求められるようになる彼らに対して、食材が供給される背景に着目してもらい、地産地消はもちろん、食料が生産地から食卓に届くまでの環境への負荷、いわゆるフードマイレージの低下や、食料自給率の向上につなげるための「気付き」を与えるのが目的だ。

 本ワークショッププログラムのポイントは、料理の構造化とレシピ設計を通して、食の営みと社会課題とのつながりについて考える点にある。味噌汁やカレーなどの馴染み深い料理を題材として、そこに使われる食材や調理操作といった要素を因数分解しながら、食べているものの成り立ちに対する関心や食の営みと社会課題とのつながりに対する理解を深め、ワークショップの後半では学んだ知識を生かしてレシピの考案まで行うことで、どのような食材や調理方法を選択すれば「持続可能な食生活を実践できるのか」を考える。

 本ワークショップが開始されたのは2020年。これまで累計500名が受講してきた。受講生からは、「何かを食べるときでも持続可能性が関係していることが分かった」「栄養面や産地、原材料を意識するようになった」という声が上がっている。

 本田講師は語る。「大切なのは『多視点』を持つこと。『持続可能な食生活』とひとくちにいっても、経済力や調理スキルは一人ひとり違うので、実践できることも人によって異なる。『〜すべき』と押しつけるのではなく、『持続可能な食生活』を実践するための選択肢を増やすきっかけを与えたい」。直近では、農学や言語学、建築学などの専門家との共同研究に取り組んでいる。今後の目標として、「ワークショップの実践を重ねながら、ワークショップの詳細設計と受講者の生活背景を考慮した効果の検証を行い、有効性を高めていきたい」と意気込む。

PROFILE

熊本県立大学大学院環境共生学研究科を修了後、食品メーカーでの商品開発、給食委託会社での給食の運営に従事。
その後、尚絅大学生活科学部や立命館大学食マネジメント学部を経て、2022年4月より現職。
2024年4月からは、京都芸術大学食文化デザインコースの科目担当講師も務める。