研究紹介

韓国コスメはなぜ人気なのか?(前編)

  • 2022/07/07

    神栄 美穂

韓国コスメはなぜ人気なのか?(前編)

皆さんは、「韓国コスメ」は好きですか?

この問いに対して、Z世代の女子大生の多くからは「はい!はい!はい!」という返事が返ってきます。実際、私が担当する講義の中でも、韓国コスメの人気の高さがうかがえるデータがいろいろとあります。

2020年に経営学部が誕生してから、私は1年生対象に「経営学入門」という必修科目を担当しているのですが、中間レポートの課題で「最近のヒット商品についての考察」を提出してもらっています。1期生は新型コロナウィルス感染症が流行し始めた最初の学年でした。マスクメイクも初めてです。そんな1期生の中間レポートでは、韓国コスメの「rom&nd ジューシーラスティングティント」を多くの学生が「最近のヒット商品」として取り上げていました。「絶妙な色味」と「落ちにくさ」・「マスクにつかない」点など、SNSを中心に2019年~2020年にヒットした商品です。2期生も「rom&nd」や「CLIO」など、韓国コスメを取り上げてレポートを書く学生が多く、依然として人気の高さを感じていました。

また、経営学部の特徴の1つである実践学習では、2021年3月に「韓国コスメのトレンドを探るフィールドワーク」というプロジェクトを担当したのですが、その際学生が行ったアンケート調査(「韓国コスメに関するアンケート調査」2021.3 (n=130))では、回答者の95%が「韓国コスメに興味を持っている」という圧倒的な結果となりました。
そして、今年から始まった3年生のゼミ活動でも、私のゼミ生は「韓国コスメのイノベーション」や「韓国のトレンドが日本のZ世代女子に与える影響」などを研究テーマとしており、やはり「韓国熱」は続いています。

[rom&nd ジューシーラスティングティント]

どうしてZ世代の女子大生に「韓国コスメ」はそんなに人気があるのでしょうか?
このコラムでは、前編・後編に分けて、その「謎」(⁈)について私なりの見解を示したいと思います。

私は前職で外資系消費財・化粧品メーカーでの実務経験があり、20年以上、韓国の消費者調査や市場調査、製品開発を通じて、「韓国コスメ」と関わってきました。私が韓国市場を担当し、調査し始めた2000年代初めには、まだ「韓国コスメ」という言葉すらなく、誰もここまで市場が大きくなるとは想像していませんでした。それが今では、日本では「韓国コスメ」、海外では「K-Beauty」として、確固たるポジションを得ています。

まず、数字で「韓国コスメ」の勢いを紹介しましょう。
2020年度の統計データでは、2019年の韓国の化粧品市場の規模は世界第7位、フランスとほぼ同じぐらいの120億ドル、1兆3,000億円です。日本は、アメリカ・中国に次いで第3位。「なーんだ・・・」と思われるかもしれませんが、ここで注目すべきなのは、韓国の市場規模の成長の早さです。2009年からの10年間で2倍以上の市場に成長しました。そして国内の成長と同じぐらい、輸出も増えており、今や「K-Beauty」として、中国やアメリカ、ヨーロッパなどでも非常に注目を浴びる存在になっています。一方、日本の市場規模は2012年をピークにその後2015年まで減少し、それから若干増加したものの、大局で見ると15年以上、ほぼ市場規模は変わっていません。(2012年まではアメリカに次ぐ第2位でした)

出所:NITE, 2020 年度化粧品産業動向調査より筆者作成

次に、日本に輸入される化粧品の国別データを見てみましょう。近年、韓国からの輸入がぐんぐん伸びていて、とうとう2020年にはタイやアメリカを抜いてフランスに次ぐ第2位の化粧品輸入国になっています。このグラフの傾きの勢いを見ていると、「韓国コスメ」が日本に輸入される1位になる日が来る、というのもまんざら妄想ではないのでは⁈と思ってしまいます。

このように、「韓国コスメ」の勢いは、市場成長や日本への輸入の増加という数字で見ると、より明らかです。

では、本題に入りましょう!「韓国コスメ」がこんなに勢いがあるなぜか?
一言で言ってしまうと「“韓国”はマーケティングが上手いから」です。「物を売る」ことを「営業」だとすると、「マーケティング」とは「物が売れる仕組みを作ること」です。
「“韓国”のマーケティングの上手さ」について、コラム前編ではまず1つ目のマクロな視点から解説し、2つ目のミクロな視点についてはコラム後編に回したいと思います。

【韓国コスメは国家プロジェクト⁈】
先ほども紹介したように、韓国国内の化粧品市場は大きく成長してきたとはいえ、まだ世界第7位の規模しかありません。このように、韓国企業は自国内の経済規模が日本ほど大きくないため、海外でのビジネス展開を強く意識します。そして、グローバルな競争力を高めることができるよう、実は韓国政府が「国を挙げて、化粧品産業をバックアップ」しています。「“韓国”のマーケティング」は国家レベルなのです。
韓国政府は化粧品の研究開発費用の一部を補助するなど、韓国コスメの強みを創出するための財政サポートを2007年の化粧品法改正時(2008年2月施行)から行っています。   このような財政サポートを行っている国は、韓国以外にはありません。また、輸出に必要な手続きや支援ができる専門家を育てたり、輸出手続き自体を簡素化したりしていますので、中小企業であっても大企業と変わらず、海外ビジネスに進出しやすい環境を整備しています。

例えば、このコラムの最初の方で紹介した「rom&nd」というブランドは、2016年に人気YouTuberの민새롬(ミン・セロム)さんがプロデュースし、誕生したコスメブランドですが、同ブランドの「ジューシーラスティングティント」は2019年に日本に上陸し、化粧品口コミサイトの@コスメでは、@コスメ ベストコスメアワード2020年上半期新作ベストリキッドルージュ第2位に輝いています。たった3年で海外展開し、しかも日本で爆発的に売れているという裏には、輸出を積極的にサポートしている政策と、もう一つ、韓国の国を挙げての対策があります。

【韓流マーケティングの効果は絶大⁈】
韓国コスメを使いだした理由や、韓国コスメを好きになった理由の一つに多く見られるのが、「K-popが好きだから」・「韓国ドラマをよく見るから」という答えが挙げられます。(その他、「色」や「パッケージ」等に関わる点については、後編で記述します)
初めに紹介した「韓国コスメのトレンドを探るフィールドワーク」実践学習でのアンケートでも「好きな韓国アイドルが使っているから」という理由が韓国コスメを買った理由で20%を占めました。韓国コスメを使っている女子大生の約5人に1人は、コスメの入り口が「韓国アイドル(歌手・俳優)」ということになります。

先ほどから例に出している「rom&nd」も、SNSに韓国アイドルにメイクした際の商品名と使用色番が掲載され、そのアイドルや韓国アイドルメイクに憧れた人が購入する、という流れが増えたと言われています。また、女性アイドルだけでなく、男性アイドルが使用しているコスメやスキンケア商品を購入するファンも大勢います。

[LIPS 口コミより]

他にも、韓国ドラマを見ていると、女優さんがメイクをするシーンで商品がバッチリ映るのに気づいた人はいますか?これは、「PPL」(プロダクトプレイスメント)というマーケティング手法で「間接広告」とも言います。韓国のドラマは、途中でCMを流すことができないため、このような手法が取られるとも言われていますが、やはり韓国外で放映することによる宣伝効果も狙っています。少し前のドラマですが、「星から来たあなた」(2013~2014年)の中で主人公の女優さんが使用したリップが「チョンソンイ* リップ」(*主人公の名前)と言われて有名になったり、「太陽の末裔」(2016年)の中で主人公の女優さんが使用したリップが「カンモヨン* リップ」(*主人公の名前)とか「ソンヘギョ** リップ」(**女優さんの名前)として有名になりました。このようなコスメを使うことで「女優気分」になれたり、「韓国気分」に浸れるなどのエモーショナルベネフィットが得られます。

このような裏には、化粧品とエンターテイメントのつながりを上手く利用した韓国政府の取組が功を奏しています。いわゆる「韓流マーケティング」ですね。韓国のアイドルや音楽、ドラマ・映画といった文化コンテンツを積極的に海外市場に展開する方針は、1998年に金大中大統領が打ち出しました。
「韓流マーケティング」によって韓国のアイドルや音楽、ドラマなどのファンになり、その影響で韓国製品に対してのイメージも良くなり、最終的には韓国そのもののファンになる構図を、サムスン経済研究所は下図の4段階で説明しています。

 

いかがでしょうか。皆さんは何段階目にいるでしょう??

「そんな国を挙げてのマーケティングに操られていたなんて!」と思う人もいるでしょう。
・・・とはいえ、「好きなものは好き」ですし、「かわいいものはかわいい!」・「かっこいいものはかっこいい!」のです。実は私もすでに「第4段階」にあり、「韓国そのもののファン」です。なので、少し韓国贔屓目に映るかもしれませんが、次回、後編では「“韓国”のマーケティングの上手さ」をミクロのマーケティングの視点からお伝えしたいと思います。

経営学部では、このようにトレンドや消費者のニーズの変化を探ったり、そのような変化による企業の動向などを仮説を立てながら考える演習を行っています。興味を持たれた方は、学生を交えた産学連携も行っていますので、ぜひお声をおかけください。また、受験生の方は、ぜひオープンキャンパスや入試相談会にお越しください。