乳がんを悪化させるメカニズムの解明と新たな治療法の確立を目指して。
薬学部
中瀨 朋夏教授
小さな発見も、思わぬ失敗も、すべてが乳がん治療につながる一歩となる。
(武庫川女子大学 キャンパスガイド2024から転載)
乳がんは多くの治療薬が開発され、早期に発見すれば治る病気となった。ところが忘れた頃に、再発や転移が見られることが少なくない。
「何とかしたい」との思いで、2007年から乳がんが悪化するメカニズムの解明に取り組んできたという。
その大きな成果として、まず2つの発見が挙げられる。
一つは、人間の体に欠かせない栄養成分である亜鉛が、乳がんの悪化に関わっているということ。
細胞に亜鉛を取り込む役割を持つ「亜鉛トランスポター」を使って、乳がん細胞が亜鉛を取り込み、悪性化に活用していることが明らかになった。
2つ目は、悪性度の高い乳がん細胞の表面には、細胞にシスチンという物質を取り込む「シスチントランスポーター」がたくさん存在しているということ。
これらの発見は、2種のトランスポーターを制御することにより悪性化を抑えられる可能性があることを示す。
そしてさらなる研究の結果、潰瘍性大腸炎の薬が「シスチントランスポーター」の働きを抑えること、またそこに東南アジアなどで使用されるマラリアの特効薬を組み合わせれば、より効果的であることも分かった。
一方、大阪公立大学との共同研究では、細胞同士の情報交換を担う「エクソソーム」という物質に抗がん剤を入れ、ピンポイントでがん細胞にアタックする治療法の実用化にまい進中。
「分からなかったことが分かることは楽しい。実験が失敗して、仮説が間違いだったと判明することも重要な情報」と語る。
「研究は常に世界が舞台。メジャーリーグでプレーしているようなもの」。この“ワクワク”を原動力に、乳がん根治への挑戦は続く。