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英語教育のあり方とは
教育学部 教育学科
村上 加代子 准教授
専門分野:英語教育、英語基礎リテラシー、特別支援教育、ディスレクシア
「英語が苦手」の原因は指導方法にある
社会のグローバル化が進み、英語力の必要性が叫ばれて久しいが、日本人の英語力は依然としてアジア諸国の中でも低い位置にあり、韓国や中国などに差をつけられているのが現状だ。その原因を村上准教授は、「学習者の努力不足ではなく、指導方法や教育制度といった仕組みにも問題がある」と指摘する。
村上准教授は、これまでに英語の読み書き困難に関する基礎研究や、日本語母語話者の音韻意識の調査、段階的・体系的読み書き指導プログラムの構築と効果検証、教材の開発と普及などを手掛けてきた。折しも2007年の特別支援教育のスタート、2020年の新学習指導要領による小学校での英語の教科化などを経て、「できる子」「できない子」の乖離が一層進んだ。その結果、単語や文章をうまく「読めない」「書けない」といった、英語学習の最も基本となる部分でのつまずきが顕著になってきたという。
英語圏に存在するディスレクシアとは
村上准教授によると、英語はその言語的特質から、読み書き困難者(ディスレクシア)が10~15%存在するといわれている。そのため、英語圏では幼児期から音韻意識(音を意識して聞き分ける力)を鍛え、フォニックス(音と文字の対応関係[例:[k]、[æ]、[t]をつないで”cat”という語になる]を学ぶことで読み方を習得する学習法)などを用いて6~7年かけて習得する教育方法が確立されている。「ならば、英語が母語でない日本人にはさらに多くの読み書き困難者が存在するのではないか。この仮説のもと、日本語話者にとって効果的な英語学習法の研究を続けています」と村上准教授は語る。
研究の傍ら、村上准教授は武庫川女子大学で、読み書き困難者などを想定した学習指導ができる教員の育成に日々取り組んでいる。さらに個別教育の実践者として「最初のステップでつまずかせないことが何よりも重要」「英語圏と同様に早期に英語の音声的な学びを経験すると、中学校以降の本格的な読み書き学習でつまずかない」といった知見を得てきた。また、教育方法に悩む教員との勉強会を発展させ、“英語教育ユニバーサルデザイン研究学会(AUDELL)”を設立。現在も会長として精力的に論文発表や教員向け研修会などを続けている。

効果的なデジタル教材の必要性
そもそも日本における英語教員は前述のような困難を経験せずに教員になった人が多いため、『なぜ英語ができないのか』が分からず、指導に悩む事例が少なくない。そこで村上准教授は英語圏の学習法に加えて、日本語母語話者の特性を反映した音韻意識も加えたデジタル教材の作成を目指している。日本語母語話者がつまずきやすいポイントはすでに把握されており、その指導法も提案されている。デジタルであれば、教員が自分では教えられない部分まで指導でき、学ぶ側はもちろん教える側のバリアも超えることができるため、「すぐにでも効果的な教材づくりに取り組みたいので、ともにデジタル教材をつくれるパートナーを探しています」と村上准教授の言葉にも力がこもる。さらに、中長期的な目標として、「アセスメントテストを開発し、英語を学ぶ子どもたちが何ができていて、何ができていないのか、英語教員が把握して授業に臨める体制づくりを目指します」と村上准教授は力強く語る。

PROFILE
University of Wisconsin-Madison 図書館情報学研究科修了。
広島大学人間社会科学研究科博士課程後期在学中。
英語教育ユニバーサルデザイン研究学会(AUDELL)代表。
英語の読み書き困難に関する基礎研究や、日本語話者の英語学習における初期段階でのつまずきに着目した英語教育法の開発・啓蒙などに携わる。著書・DVD多数。